存在してないもの

在るようなないような雑記帳

「脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす」(甘利俊一)

数理脳科学人工知能について幅広く書かれている。脳の構造、記憶の仕組み、数理脳科学人工知能の歴史、機械学習と脳の情報処理の関係、心とは何か、などなど。甘利先生が研究してこられた分野の歴史や技術的な内容を一般向けにかみ砕いて説明した本になっている。

特に面白かったのは脳の記憶の仕組みとコンピュータの記憶の仕組みの違い。人間の記憶があいまいだったり間違っていたりするのは、情報を重ね合わせて記憶しているから。思い出すときはその重ね合わせから関係あるところだけを取り出している。脳はかなり複雑な情報処理をしているようだ。

所々に甘利先生の体験談が入れられていて興味深く読ませていただいた。機械学習への貢献も多くされているようだが、中には自分が最初に発表したのに後から出てきた似たようなアイデアが有名なったこともあったそう。研究が知ってもらえるかどうかは、学界の流行に左右されるようだ。

人工知能の研究開発は世界中で行われているが、海外が先行していて日本は遅れている。文中では、実用的な研究は民間企業に任せて、学術的には日本なりの研究を進めるのが良いと書かれている。それはその通りだと思う。役に立つかどうかは分からなくても、研究者が熱意をもって掘り下げたアイデアはきっと後になって何かに結び付くはず。基礎的な研究を軽視していては日本発の技術などなくなってしまうだろう。