存在してないもの

在るようなないような雑記帳

「朝が来る」(辻村深月)

子供に恵まれない夫婦、望まない妊娠をする中学生、養子に出される子供、それぞれの物語。第一章は栗原清和・佐都子夫妻と朝斗の日常を描く。夫婦は朝斗を本当の子供として育て、信頼を置いている。幼稚園で少々トラブルはあるが、幸せな日常生活を送っている。たまに無言電話がかかってくることを除けば。

第二章は栗原夫妻が不妊治療を始めてから朝斗に出会うまでの物語。子供はそこまで欲しいと思っていない夫婦でも、年齢を重ねてくると、どうしても若いうちにしかできないことに未練が出てくるのかもしれない。夫婦は不妊治療まで行ったが、その辛さに耐えきれず断念。ところが、特別養子縁組というのを知って、自分たちもそれに参加し、幸運にも朝斗を迎えることができた。個人的には、年齢的な理由から急に子供を欲しくなるなら、もっと早く子作りをしてほしいと思う。不妊治療に関しては結構詳細に描かれている。その辛さはすさまじいもののようで、読んでいるだけで気が滅入ってしまった。

第三章は片岡ひかりが中学生で子供を産み、その後家出して、最後に栗原夫妻のところにたどり着くまでが書かれている。ひかりは受験に失敗したことで両親との仲が悪くなり、妊娠・出産をきっかけにさらに悪化。結局ひかりは家出してしまう。ひかりは勉強ができる姉と比べられてしまうのだが、その気持ちは私にも何となくわかる。できる子供がいるとその兄弟・姉妹は比べられてしまって大変だ。

第四章はひかりが栗原家を訪ね、子供返してほしい、それができないならお金を払ってほしいと告げる。しかし、夫婦はひかりが朝斗の実の母親だとは気づけず、追い返してしまう。実の母親なのに、そうであることを認めてもらえないのはつらいだろうな。しかしそのあとになって佐都子はあのとき訪ねてきたひかりが朝斗の実の母親だと知ることになる。もう会うことはないはずだったが、佐都子は街中で奇跡的にひかりを見つける。朝斗と実の母であるひかり、ひかりの両親と同じくらいの年齢の佐都子、この3人が最後に奇跡的に出会う。佐都子はあのとき気づけなかったことを詫び、ひかりを赦す。ひかりは息子に会うことができた。朝斗はひかりのことを見つめている。ここまでくる中で、それぞれに辛いことはあったし、お互いにすれ違いもあったけど、それらすべてが報われたに違いない。